国際ジャーナリスト 大野和基
著書・訳書

2014年5月
核武装大国・日本への期待
激動のウクライナ、束アジア情勢を読み解く


ロシアのサバイバル能力は高い

- 私は、ロシアのプーチン大統領は時勢を読むに長けた、強かな権力者と考えています。今回のクリミア侵攻も、かなり戦略的なものでしょう。

トッド 多くの人がプーチンは「チェス・プレイヤー」だといいますが、他国のプレイヤーはその動きについていささか高を括ってきた感があります。ロシアのサバイパル能力はきわめて高く、クリミア半島奪取は「新しいロシア」の安定化につながるでしょう。

人口学・歴史学の専門家としてみると、ロシア人の気持ちが高揚している理由がよくわかります。いまや乳幼児死亡率が下がり、平均寿命は上がり、暴力事件やアルコール中毒患者は減少。出生率は1.7まで上昇しています。ロシアは再び国際社会の主役になっている。

クリミアに関していえば、巷間いわれる武力侵略とはまったく違います。そもそも共産主義の崩壊後につくられた国境は異常なものだったのです。ロシア人はクリミアを手放すという、普通ならとても受け入れられないことを甘受してきた。歴史上、西洋がロシア人にしてきたことは言語道断な振る舞いであった、というのが私の持論です。ロシア人は民主化という、いささかエレガントなかたちで共産主義から脱しました。彼らはいかなる種類の軍事的な反動を伴うことなく、自らの帝国を失った。ウクライナに関する米ロの交渉に際して「冷戦時代に戻りつつある」という人がいますが、私はその説を信じていません。米ロ合意の可能性はあると思います。

- 英米に比べて、独仏両国はロシアに対する経済制裁に消極的だと日本では報じられています。

トッド ウクライナのような東欧の話をするとき、独仏の指導によって西欧が動くという認識は考えられません。たとえば、スウェーデンやポーランドはロシアとの関係が複雑で、基本的にはロシアに対する見方はネガティブです。私自身、この事実を数年前にストックホルムで知ったときは驚きました。スウェーデンは中立国で平和主義という評判がありますからね。しかし実際のところ、彼らはロシア人には我慢がならないのです。これは歴史上の記憶が関係しているでしょう。ロシアはかつて北方戦争(1700?21年)でスウェーデン帝国を破壊した国です。一方、ポーランドについては、ロシアとのあいだに問題を抱えていることは誰でも知っているでしょう。

たしかに現在、ドイツのロシアに対する態度は曖昧にみえます。ドイツ人は、かつてのビスマルクのようにロシアとの同盟が必要だという考えと、根深い反ロシア的な考えとのあいだを揺れ動いている。この揺れはメルケル首相の心の中にもあると思います。ロシアとは戦略的なエネルギー上の提携関係が必要だといったかと思えば、突然、プーチンは現実離れしている、という。私はプーチンこそ現実主義で、メルケルのほうがよほど現実離れしていると思いますが。








エマニュ工ル・トッド Emmanuel Todd
(フランス国立人口学研究所研究員)
1951年生まれ。パリ政治学院を卒業後、ケンブリッジ大学で博士号を取得。人口学・歴史学・家族人類学者。世界的ベストセラーになった『帝国以後』2003年、藤原書店)など、著書多数。

帝国以後
〔アメリカ・システムの崩壊〕

エマニュエル・トッド (著)、 石崎晴己 (翻訳)
「帝国以後」と日本の選択
エマニュエル・トッド (著)

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