特集 米国型強欲資本主義の終焉 カリスマ投資家が語る「危機の本質」「次代の覇者」ジョージ・ロス 「アメリカの時代は終わった」 月刊現代2008年12月号




月刊現代 2008年12月号

特集 米国型強欲資本主義の終焉

カリスマ投資家が語る「危機の本質」「次代の覇者」

コージ・ソロス 「アメリカの時代は終わった」


世界一の運用実績をあげて、1兆3000億円を稼ぎ出した。イギリス政府を相手にポンドの空売りを仕掛けて勝利し、莫大な利益を得た -- 世界を舞台に多くの伝説を生んできたのがジョージ・ソロス氏(「ソロス・ファンド・マネジメント」会長)である。このほど『ソロスは警告する』(講談社刊・原題『The New Paradigm for Financial Markets』)を上梓した「カリスマ投資家」を訪ね、アメリカから世界に拡がった金融危機についてインタビューした。


- アメリカの現況をどう分析していますか。このまま事態が進展していくと、大恐慌になりますか。


ソロス そうならないといいですが、アメリカはいま、間違いなく深刻な不況期に向かっています。これは、「アメリカの時代の終わり」を意味します。私が言っている「時代」というのは、増加し続ける経常赤字を抱えながらもアメリカが世界に君臨していられる状態のことです。ドルを国際基軸通貨とした、信用膨張の時代は終わりつつあります。いままではアメリカ経済が安定していたので、米ドルは基軸通貨とされてきましたが、これからはそうはいかなくなるでしょう。


- アメリカ政府は金融安定化法案を提出し、米下院は10月3日、これを修正可決しました。その中身は「最大7000億ドル(約70兆円)の公的資金を使って、金融機関から不良資産を買い取ることを柱とするもので、他に預金保証限度額を、来年末まで現行の10万ドルから25万ドルに引き上げることなどが含まれていました。この内容について、どう考えていますか。


ソロス このアイデアは欠陥だらけだと思います。まず第一に、そんなことをしても住宅の持ち主は、ローンの返済ができるようになるわけではありません。また差し押さえを防げるわけでもない。まだ住宅価格が底を打っていない状況で、政府がMBS(不動産担保証券)を買い取り、その価格をつり上げるようなことをすれば、納税者にさらに負担を求めるような結果を招く。このようなウォールストリートを利するようなアイデアは、受け入れられません。金融機関に資金を入れて救済しなければならないことは理解していますが、政府が最初にやるべきことではありません。


- その後、ポールソン財務長官が、あなたが提唱していたアイデア、つまり公的資金を銀行に注入するという策を講じると発表しました。


ソロス 政府はいつも出遅れますね。この策を数ヵ月前に実行していれば、いまのような状況に陥らずに立て直せていたかもしれません。我々は1930年代に、金融機関を破綻させてはいけないという教訓を学んだはずでした。こんな重要な教訓がすぐに活かされなかったのはおかしい。対策を実行に移すことが遅れると、損害額がどんどん大きくなります。もっと早く公的資金を注入していれば、ここまで「事」が大きくなっていなかったと思います。


- すでに手遅れということはないでしょうか。


ソロス もちろん手遅れの可能性もあります。何とか間に合えばと願っています。



市場原理主義という誤り


- この金融危機を招いた根本的な原因は何ですか。


ソロス この金融破綻は、市場そのものから生じた、自然発生的なものです。金融界が傲慢になりすぎて、レバレッジ(借入金による投資)を何度も使って、過剰に信用を創造した結果です。いま金融システムは破綻寸前で揺れています。その瀬戸際を越えてしまうことはめったにありませんが、1930年代にはそれが現実となり、世界恐慌が起きてしまいました。そのとき以後、金融危機があってもなんとか解決することができていました。いま起きている危機は30年代の恐慌以来もっとも深刻なものです。にもかかわらず、政府の対処は立ち遅れています。危機が表面化してきてから、善後策を講じていますが、事態はどんどん悪化していきます。政府は、何が原因で危機を招いたかを正確に理解していません。つまり状況を把握できていないのです。


- 政府の誤りの原因はどこにあるのですか。


ソロス  政府はそもそも誤った前提のもとで動いています。市場原理主義への信奉が強すぎるのです。「市場は常に平均値に戻る」という論理に固執しているのです。この考え方をもう少しわかりやすく語れば、「市場は自己修正できるので、市場に任せておけばいい、政府が介入する必要はない」ということですが、これは誤りだと思う。市場は確かに調整能力があり、とてもフレキシブルですが、そこには「見えない手」の存在があるのです。そのため市場はニュートラルではなく、どちらかに絶えず偏っているのです。


個人は市場取引に参入するとき、様々な思惑を抱えており、そのことが市場に影響を与える。こうした人間の「操作機能」と呼ぶべき「見えない手」が、市場を動かしていく。つまり「市場は現実を反映するが、常にバイアスをもって現実をみている」のです。私はバイアスのことを楽観主義とか悲観主義と呼んでいます。これが実際に強い力になって、支えられないほど大きなバブルになり、はじける。それがいま現実に起きているのです。


- 市場原理主義をアメリカ政府や金融関係者が信じていたことが、今回の危機をもたらした原因のひとつだとすると、市場の動向をみていく上でどんな考え方を軸にすればよいのですか。


ソロス たしかに新しいパラダイムが必要だと恩います。先程、市場を動かしているものが何かについて話したときにも少し触れているのですが、私は「reflexivity」(再帰性)という概念こそ、新しいパラダイムだと捉えているのです。


何か社会現象にアブローチするときに、人間はそれを知って理解しようとする(認識機能)と同時に思い通りにしたい(操作機能)と考える。この二つの機能は分離することが難しく、社会現象とはそこにかかわる人間の未来に対する意図や期待を含めて構成されているのです。私は、この社会現象と、社会現象に「参加した」人の思考との間の双方拘性のあるつながりを「reflexivity」と名付けました。この概念をもっと簡単に言うなら、思考は現実の一部であるということ。市場の話で述べるなら、投資家の分析は、現状を単に鏡映しにしているのではなく、実際に市場を変えるのに一役買っているということです。



銀行と証券会社の「強欲」


- 今回の危機は住宅バブルがはじけたことから始まりました。なぜこんなことになったのでしょうか。


ソロス アメリカでは銀行などが住宅ローン融資をすることを決めると、実際の融資自体は貸し付け専門業者である「ブローカー」によって行われます。ここでできたローン債権は銀行によって集められ、まとめられて証券会社に売られる。証券会社はこれらを証券化して格付け会社からお墨付きをもらって機関投資家に販売します。この斬新な新しい方法、「住宅ローンの証券化」を金融機関が開発したことこそが問題だったのです。証券化のお陰でリスクを計算しやすくなり、信用の創造もしやすくなりました。そのことが住宅価格をつり上げたのです。もちろん背景にはグリーンスパン(米連邦準備制度理事会=FRB前議長)が金利を長い間、不当に低くしていたという事実もあります。結果、住宅価格は何年もの間、年に10%以上の割合で上がりました。銀行もどんどんカネを貸したがり、証券会社も証券をどんどん売りました。この新しい「商品」によって「飽くなき強欲」をくすぐられたのです。


銀行がよく理解できていなかったことは、住宅ローンをパッケージにして売る人と、その抵当権を所有している人が別人で、その間にコミュニケーションがないことです。誰も住宅ローンの質に注意を払いませんでした。証券化のアイデアのポイントは、リスクを分散することによってリスクを減らすことですが、実際には、様々な金融機関の手を経るためリスク管理が甘くなり、かえってリスクが高くなっているのです。格付け機関はそのことを認識していません。だから、住宅ローンを証券化した商品の多くにAAAという格付けを与えてしまう。そしてやがてそのAAA証券が「紙くず」であることがわかる。これが実際に起こったことなのです。


- ではなぜ金融システムがここまでおかしくなったのでしょうか。


ソロス 金融技術が加速度的に発達したからです。政府が、この技術の本質を理解せずにいくつかの金融規制を撤廃していったことも、その原因としてあげられます。「銀行はきちんとしたリスク管理の技術を持っているから、リスク計算は銀行に任せておけばいい」と考えていたのです。アメリカでは住宅市場関連の金融商品に限らず、金融技術の助けを借りて、他にもありとあらゆる新しい金融商品がつくられました。こうした商品が様々なバブルを演出して、その中で住宅バブルだけが、超バブルにまで育ったのです。この25年間絶えず信用膨張が起きていました。正確には言えませんが、経済成長の2~3倍の速さで膨張していたのです。そしてはじけ飛んで、金融危機を呼び込んだのです。



金融技術を代表する男


- アメリカ政府はまず金融機関に公的資金を注入する決断をしました。次にやるべきことは何でしょうか。


ソロス まず、住宅価格が上昇したときと同じような速度で下降しないようにしなければなりません。下降そのものを止めることはできませんが、住宅ローンを抱える人がそれを組みなおして、払えるようにすべきです。そして差し押さえを最小限で食い止めることも重要でしょう。損失は納税者が負担すべきではなく、抵当権を持っている人が負担すべきです。家の持ち主は救済されなければなりません。


私自身も「Center for New York City Neighborhoods」という組織を立ち上げて、住宅競売を阻止するための相談にのったり、ローン借り換えの仲介をしたり、差し押さえがなされないようにしたりして、住宅ローンを抱えている人を支援しています。


そもそも抵当の額が家の価値を超えてはいけないのです。すでにエクイティ(財産物件の純粋価値=市場価値から抵当の総額を引いた額)がマイナスになっている住宅が全米で1000万軒あります。今後2000万軒以上まで膨れるでしょう。


- ポールソン財務長官の能力をどう評価しますか。


ソロス あまり評価できませんね。彼は、まさにいまのような状態に我々を陥れた金融技術を代表している人物と言えるからです(ポールソンが財務長官就任前までゴールドマン・サックス会長兼最高経営責任者を務めていたことを指している)。そのうえ財務長官として最初に金融機関から不良資産を買い上げると主張しました。おまけに彼は、負債を抱えた投資会社を救おうともしていた。


- もしあなたが財務長官なら、最初から資金を金融機関に直接注入していましたか。


ソロス もちろんです。公的資金を受け入れたとなると金融機関の株価が下がり、株主に痛みを与えるので、ポールソンはやりたくなかったのでしょう。間違ったことをしてきたということで名指しすれば、ブッシュ大統領も、いままでずっとそうでした。だから私は、政権が替わることを心待ちにしています。



求められる新しいモーター


- これから状況はもっと悪化しますか。


ソロス いまが金融危機のピークかもしれませんが、もう少し悪くなる可能性もあります。そうなると実体経済にも影響が出てくる。


- この状態はあとどれくらい続きますか。


ソロス 私は、将来を予測することはできないという立場の人間です。それは、将来とはいまの状況に我々がいかに対処するかにかかっていると考えているからです。もしいま正しく対応すれば、痛みは少なくなりますが、誤れば痛みは大きくなります。そういう意味で、現在何が起きているか、それはどうして起きたのかを理解することはきわめて重要でしょう。これほど深刻な事態に落ち込んだのは1930年代以来のことですが、現実を直視することは非常に大切なことです。


予測といえば、FRBにも在籍したことがある、ニューヨーク大学のルービニ教授は2006年に「住宅バブルが不況をもたらすきっかけになる」と予言していましたが、あれは当たっていましたね。まさしくそれがいま現実になっています。


- アメリカ経済はもう行き詰ったと考えるべきですか。


ソロス この25年間、世界経済を動かし押し上げてきたモーターは、「アメリカの消費者による消費」です。彼らは蓄える以上に使ってきました。生産する以上に使ってきました。いまそのモーターのスイッチが切られたのです。世界経済には新しいモーターが必要です。


ただそれはこれまでのアメリカのそれのような強力なモノにはならないでしょう。だから世界は変わらねばならない。人々はこれまでのように消費するばかりではなく、エネルギーをあまり使わないライフ・スタイルにしなければなりません。痛みを感じるでしょうが、そうしないと生き延びることはできないと思います。そしてよりよい世界秩序を形成し、その中で地球温暖化のような人類が直面している大問題を協力して解決しなければなりません。


- いずれにせよアメリカは衰退していくことになるのですか。


ソロス アメリカは、景気後退に加えて、ドル離れという現象に直面しています。住宅価格の下落も重なり、金融界の損失がどれくらいになるか、見当もつかない状況です。したがってアメリカ経済がこれから加遠度的に衰退する可能性は非常に高いと思っています。



中国より魅力的な国


- ではアメリカに替わって、世界経済を牽引していくのは、どの国になるのでしょうか。


ソロス アメリカに替わろうとしているのは中国かもしれません。損を出し続けている国営企業が、どんどん民間人の手に渡り、「スーパー国営企業」に変貌して中国経済を引っ張っていくと思います。中国がいま起きている金融危機の影響をどれくらい受けているのか正確にはわかりませんが、それほど受けないまま資本主義に転換する可能性もあるでしょう。


ただ投資家の目で見れば、中国よりも魅力的な国がインドです。その理由の第一はなんといってもこの国が中国と違って民主主義国家だということ。つまり法体制が整っているからです。まだいろいろ間題もありますが、人件費が安いことを武器にアウトソーシングの仕事を世界中から呼び込んだIT産業は急成長を遂げ、その活力はまだまだ残っています。中国と比べるとインフラ整備は遅れていますが、インフラ投資は急増しており、今後インド経済はかなりいい状態になると思っています。ただし株価については、ここ数年が良すぎたので一時的に調整局面を迎えることになるでしょう。


- 中東産油国も石油資源を武器に力を付けていますね。


ソロス アラブ首長国運邦、クゥエート、サウジアラビアなど産油国のいくつかは世界経済を支える活力の源泉となるでしょう。これらの国は豊富な資源を所有していることを背景に重化学工業の急速な発展を実現させています。労働力と設備の不足がなければ、この流れは加遠するでしょう。やがてこの分野における、世界的な支配力を持つようになる可能性もあります。そして、ここでもう一つ注目すべきことは、これらの国々がドル建て債券以外へと分散投資していることです。まさしく「いま」を反映していると言えるのではないでしょうか。



ジョージ・ソロス 1930年ハンガリー生まれ。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス卒。56年アメリカ移住後、証券会社を経て投資会社設立。

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