ダスティン・ホフマン/Dustin Hoffman 「計算どおりの演技なんてつまらない」 月刊PLAYBOY 2004年3月号



月刊PLAYBOY 2004年3月号

ダスティン・ホフマン/Dustin Hoffman

「計算どおりの演技なんてつまらない」


『クレイマー、クレイマー』と『レインマン』で2度アカデミー主演男優賞に輝いた、名実ともにアメリカを代表する俳優、ダスティン・ホフマンが、『コンフィデンス』『ニューオーリンズ・トライアル』と立て続けにスクリーンで健在ぶりをアピールしている。

ダスティン・ホフマンが『コンフイデンス』で演じるのは猜疑心が強く、したたかな暗黒街の大物、キング。これまでにないアプローチで、このキャラクターを掘り下げて、脚本に新しい方向性をもたらしたと言われる。その秘密を明かしていただくとしよう。



俳優が好きな監督と俳優を許せない監督


- 『コンフイデンス』では誰もが撮影を楽しんでいたようですね。出演を決めた動機は?


「脚本のオリジナル性が気にいったんだ。実を言うと、私の撮影日数はたったの6日だった。6日間で私のシーンを全部撮影したんだ。楽しかったよ。監督には基本的に2種類あると思う。俳優が好きな監督と、俳優を許せない監督。俳優に驚かされたい監督とそうでない監督だ。後者の場合、すでに頭の中に作品ができあがっていて、俳優がそのとおりに演じることを期待する。これは合理的だが、必ずしもうまくいくとは限らない。役者にもピンボールマシンのピンボールのように、そのフレームの中でちょっと飛んでみるというタイプがいる。私はそのほうが好きだし、エキサイトする。監督のジェームズ・フォーリーは、俳優に驚かされたいタイプの監督だ。もちろんある程度は決められたとおりやる必要はあるし、カメラのフレームの中に収まらないといけないがね」


- 具体的には?


「私から金をだまし取ったエド(ワード・バーンズ)が私に大がかりな詐欺計画をもちかける。さらにその運転資金までせびりに、仲間のレイチェルと一緒に私のところに来る。当然、私は頭に血が上っている。そのシーンで、オリジナルの台本では、私がエドを殴ることになっていた。だが、私はそうしなかった。エドに『顔は殴りたくない。今まで見たこともないようなことをやりたい。2、3度殴ってみるか』と言うと、彼は『そうだな、やってみてくれ。』と答えた。だが、私は何もかもを計算どおりにするのは好きじゃない。で、私は彼の顔に近づいて、台本にはない台詞を言った。それが映画だ。私はアドリブが好きなんだ。『きみの前には素晴らしい人生がひろがっている』とかなんとか。これは私が演じている役の言葉だが、私自身の心情でもあった。そして、それがスクリーンに表れるんだ」


- レイチェル・ワイズの胸を発作的につかむシーンがありますね。実際はどうだったんですか?


「つかんじゃいない。もっとデリケートだった。もし私が撮影中に突然誰かの胸をつかんだりしたら、ただで済むとは思わないね。もともとの脚本では、私の役はレスラーのようにでかい人物として描かれていた。だから、この役を依頼されたとき、私はこの部分を書き直すべきじゃないかと言った。誰かのシャツをつかみたくないし、銃も持ちたくないとね。私が演じたギャングは、ジェームス・キャグニーのギャングのように聡明であり、その一方でキレると何をするかわからない凄みで人を怯えさせる人物だ。私はかつてある役のために刑務所を調べたことがある。刑務所ではセックスが人を怯えさせる武器となる。この映画は愛やセックスを描いているわけじゃないが、私の役は権力の象徴でもある。とすれば、この性的ニュアンスは使えるかもしれないと思ったんだ。で、リハーサルをやったよ。カメラの位置の正確さを要求されるからね」


- 予行演習をやったわけですね。


「レイチェルは、胸を押し上げて、前に突き出させる下着を身につけていた。台本では、レイチェルに対して『私の鼓動を感じてくれ。ほら、きみのよりずっと速い』と言うことになっていた。だが、私は『私がこの役を演じるからにはもっと深く解釈しよう。ボタン付きのシャツが必要だ』と言った。彼女に気付かれずに自分のシャツのボタンをはずせるようにね。『レイチェル、きみの手を取って、それをぼくの胸の上に置くのはどうかな。そうすれば、私もきみの胸に近づきやすい』。私の演じる男にもっとパワーを持たせることができる。エドの彼女といちゃいちゃするだけではなく、彼女をその気にさせればね。ワオ、なんてゾッとして、凄みのある男だ。レイチェルもこのアイデアを気に入った。レイチェルは、『いいわ、でも私はどうするの?』と聞くんだ。私が『どういう意味?』と聞くと、『どう反応したらいいかわからないわ』と言う。だから、私は言ったよ。『そんなもの、決めておく必要はないだろう?』とね」


- なりゆきに任せろと?


「そうだ。彼女は『もし私がその気になったら、どうする?』と聞くから、私は言ったよ。『そうなったら映画の大ヒットは間違いなしだ』とね」



私は私だ。ほかの誰かになろうとはしない


- 映画では、女性といるよりも男性といる方がくつろいでいるように見えますが、以前女性と一緒にいた方がくつろげると言ったことがありますね。


「女性とのほうがうまく付き合えるかどうかはわからないが、私はマッチョ・タイプじゃないからね。男性とデートをしたことはないし。一般化はしたくないが、女性の方が、私は気楽な気分でいられると思う」


- すると、女性の友達の方が、男性の友達よりも多い?


「その質問はあまり意味がないね。私には6人子供がいて、友達と付き合う時間があまりないからね。子供が多すぎるのかもしれないが、私にとって子供との時間は特別だよ」


- この作品で初めて悪役を演じましたね。『クレイマー、クレイマー』のイメージとあまりに違いますが、本来の姿はどちらに近いのですか?


「そりやあ、『コンフィデンス』だな。なにしろ、私はゾッとして、凄みのある…いや、違うか」


- この役づくりはそれほど冒険ではなかったと?


「自分がこうだと信じる者になることができる。もし私が役者として成功していなくても、そう信じているね。ある条件の下では、私はこのギャングのようにストリップ小屋を経営していたかもしれない。私自身、学校に通いながら、劇場のトイレを掃除していたからね。自分を向上させるように努力しつづけて、その行き着く先がストリップ小屋かもしれない。もし私がそんなふうにストリップ小屋のオーナーになったら?おそらく私は自分を一端の成功者だと思うだろう。自分が演じている役を非難したり、判断したり、こいつは取るに足らないやつだと言うのは間違っていると思う。それを決めるのは観客だ。私はただ、衣装係が与えてくれる衣装を着て、その役になること。だが、私は私だ。私はほかの誰かになろうとはしない。エド・バーンズといちゃつくのも私、レイチェル・ワイズといちゃつくのも私だ」


- ということは、今回の映画で、別に思い切ったことをしたわけではないと?


「そうだ。私だって売れない役者の頃は、この役に近い生活をしていた。タイピストをやったり、ウェイターをやったりして何年も過ごしていた。60年代の初めのことだ。へルズキッチン(ホームレスが食事をもらいに行くところ)で、船乗りが近づいてきて、『この女の子を拾ったんだが、この界隈で安いホテルを知らないか?金がないんだ』と言う。私は『このへんはよく知らないが』と言って、自分の電語番号を渡した。ちょっとした考えがあったんだ。当時、私は二人の精神科医と同居していた。私の兄の友人だったが、彼らはルームメイトが必要で、私も家賃を分担していた。それはそうと、当時、マリリン・モンローもそこに住んでいたよ。一人はすでにバケーションを取り、もう一人はノルウェー人で、あと3日で1週間のバケーションに出る予定だった。そうなればその間船乗りに部屋を貸せるし、女の子も連れ込める、と私は考えた。そのアパートには庭があったから、私はその庭で寝ればいいとね。週末には、人に部屋を貸して、もっと儲けられる。船乗りから電話があり、すでに来ていいと言ってしまっていた。ところが、ノルウェー人のバケーションの予定が延びてなかなかアパートから出ていかない。酔っぱらった船乗りがドアをノックして、『おい、ダスティン!ドアを開けろ!』と叫ぶ。カールというノルウェー人は、192センチもある大男で、『何だ、いったい?』と聞く。私は事情を説明しなくちゃならない。彼は、『お前はここを売春宿にしようってのか?俺は免許を取り消されちまうよ』私は『売春宿なんかじゃない』と必死で説明する。だから、『コンフイデンス』の役から、私もそれほどかけ離れちゃいないということさ」



「コンフィデンス」

若き詐欺師、ジェイク(エドワード・バーンズ)は鮮やかな手腕でワケありの金を巻き上げた。しかし、それは異常に執着心の強い暗黒街の大物、キング(ダスティン・ホフマン)の金だった。仲間を殺され、窮地に陥ったジェイクは、単身キングの元に乗り込み、金を返す代わりに、巨額の詐欺プランの実行を約束する。ジェイクと二人の仲間に、ジェイクがスカウトした女スリ(レイチェル・ワイズ)、キングが送り込んだ手下を加えた5人で、銀行から500万ドルを奪う危険な大仕掛けが始まった……。

2003年アメリカギャガ・ヒューマックス配給

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