国際ジャーナリスト 大野和基
著書・訳書

国際ジャーナリスト大野和基の取材秘録2003-2010
   ~取材現場の裏側から英語論まで~
*本書は2003年から2010年にオフィシャルサイトおよびメルマガで配信されたコラムをまとめたものです。
★英語に関する部分を項目ごとに抜粋しました。


<危機管理の英語>

- ここで、アメリカで日本人を取材する際にとても重要なことを言いたい。被取材者が日本人だからといって、日本語だけで済むと思ったら、大間違いである。アメリカで取材する限り、途中の壁はすべて英語。取材相手に警察を呼ばれ、数台のパトカーに囲まれることもあるので、英語ができなければどうしようもない。警察を呼ばれた場合は、張り込んでいる理由をきちんと説明すると、警察は納得して帰る。それどころか「この家は、そんな悪いことをしているのか、それなら張り込む価値はある。とてもnewsworthy(ニュース価値がある)だ」とぼくを激励するほどだ。公道で張り込んでいる場合は、違法にならないから、去れとは言えない。いかなる取材行為でも違法にならないように注意しなければならない。

- イラクで最近拉致・解放されたイギリス人ジャーナリスト(ザ・タイムズの特派員)に取材したが、彼と、今回拉致・解放された日本人の「危機管理意識」の差は大きい。イギリス人は、同僚のアメリカ人と2人で拉致されたが、「同僚のアメリカ人がアラビア語がネイティブとほとんど変わらないほど流暢で、彼女が冗談を言いながら、相手の気持ちを解いてくれた。彼女がネイティブレベルにアラビア語ができなかったら、殺されていたと思う」と明言した。つまり、言葉(現地語)がネイティブ並みにできることは「危機管理」の重要な要素であるのだ。拉致、解放された日本人が英語を話しているのをテレビでみたが、あれでは日本の中学生レベルだ。しかも、アラビア語もできないだろう。あれでまともに取材ができるのか、不思議でならない。ジャーナリストは言葉が命である。そのことからして、大体イラクに行くべきではないと思う。イギリス人ジャーナリストもアラビア語ができる。ネイティブ並みではないが、だから、ネイティブ並みにできる同僚のアメリカ人と一緒に行動する。イギリス人たちは誰の助けもなく、独力で解放にこぎつけている。 

- 海外旅行で日本人がよく狙われるのも、「危機管理意識が低い」ことがばれているからである。世界中どこに飛んでも、機内放送は必ず英語で行われる。日本に関係のない飛行機に乗らない限り、日本語で放送されることはない。普通はマニュアル通りの放送だが、何か危険な状況になったときは英語が聞き取れないと生死に直接かかわることもある。聞き取れないでは済まされない。英語がわかることは時には生死を分けることがあることを常に念頭に置いてほしい。戦争に行った父親がそのことを口癖のように言っていた。中学時代についた英語の先生も同じことを言っていた。英語ができたから、命が助かったと。

- ぼくはしょっちゅうアメリカに取材に行く。そのときどこでもレンタカーをするが、よくスピード違反でつかまる。そのときに応じて英語のレベルを変えるのだ。相手を見てから、どのレベルに合わせるかを瞬時に決める。だから、チケットを切られたことがない。ぼくに間違ってチケットを切ると切った本人が大変な目に遭う印象を与えればいいだけだ。それも危機管理である。

- 香港でもホテルからタクシーで空港に向かうときに、メーターが3倍の速さで回っているのを発見したぼくはすぐにドスの聞いた英語でStop the meter!と怒鳴った。「こんな古いやり方をぼくに使うのは間違いだよ。大体ぼくは日本ではなく、ニューヨークに住んでいる、日本人だと思って引っかかると思ったら大間違いだよ」と怒鳴った。相手はすぐにメーターをとめて、だまってそのまま空港まで行った。こういうときに“汚い”英語が使えるかどうかも「危機管理」だと思う。スラングを日本人は使わない方がいい、と言われているが、間違いである。英語は相手に合わせて自由にレベルを変えることができないと危機管理にならない。時には書き言葉でできるだけ難しい言葉を使って話すことも重要だ。ネイティブの相手がわからないほど難しい言葉を使うことも重要である。それは相手の無知を認識させることで、威圧感を与えるためだ。取材にはさまざまな英語が必要だと思う。アメリカ人の友人と飲みに行って、丁寧な英語を使っていると何をかしこまっているのかと言われる。相手のレベルに合わせて、英語を駆使することは、危機管理のもっとも重要な要素の一つである。だから、世界中どこに行っても落ち着いて仕事ができるのである。

- 昨秋、テレビの取材でスイスに行ったとき、あまりにも過激な取材をしたために、警察を呼ばれ、連行された。ディレクター、カメラマンと3人別々の部屋で尋問を受けるが、英語があまりできなかったカメラマンは「やっぱりこういうときには英語ができないと話になりませんね」と痛感していた。何を訊いても答えなかったカメラマンは服を脱がされたのである。放送に間に合わせるために、カメラマンがとりあえず、一人でテープを日本に持って帰る話しもあったが、「ぼくは一人で動いたことがないから、知らない言語環境の中にいると不安で仕方ありません。外国の空港に一人でいても不安です」とも言っていた。日本にいる限りは、英語はほとんど必要ないだろう。しかし一歩外に出て、何か緊急事態が起こったときに、英語で必ず放送されるから、英語がわかれば焦らなくてもいい。世界中どこにいても、いつでも平静心を保つには英語は必要だと思う。ぼく自身、そういう状態に世界のあちこちで何回も遭遇しているから、経験から言っているだけである。世界中に取材に行くぼくは、テレビ取材以外は、一人で行くことが多い。英語が公用語でない国にも飛ぶ。どんな国に行っても日本語ができる人を探すのはほとんど不可能であるが、英語ができる人を探すのはあっという間だ。


<英語の重要性> <真の英語力> <英語の使い分け> <危機管理の英語>
<発音について> <翻訳の功罪> <英語教育について> <英語の難しさ>
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