国際ジャーナリスト 大野和基
著書・訳書

国際ジャーナリスト大野和基の取材秘録2003-2010
   ~取材現場の裏側から英語論まで~
*本書は2003年から2010年にオフィシャルサイトおよびメルマガで配信されたコラムをまとめたものです。
★英語に関する部分を項目ごとに抜粋しました。


<真の英語力>

- 英語による電話取材は、顔も見えない他人と内容のある話をするわけだから、正確な英語を話さなければならないのは言うまでもない。できるだけ、書き言葉で話すように心がけている。

- 本当の英文法は、日本で教えられるほど単純ではない。日本人だと、2つの同じような日本語の文を見せられて、どちらが自然な文であるか理屈を知らなくてもわかるが、それと同じような感覚が外国語をマスターするときにも必要である。その感覚があるかないかで英語が本当にマスターできるか、できないかの分かれ目になる。「文法的に正しい」というのは、ネイティブ感覚で、おかしくないということである。何とか通じればいい、というレベルではない。何とか通じればいいと思っている限り、英語は絶対にマスターできない。コンマ一つでも、日本語に訳してしまうと、何の違いも出てこない文が、英語だけで”感じる”と微妙に違うことはしょっちゅうある。その違いがわからない限り、英語はマスターできない。

- ぼくの取材対象は、ほとんどがアメリカ人である。この前も今話題になっている曽我ひとみさんの夫であるジェンキンスさんの従兄弟(ノースカロライナ州)にあたるジェームス・ハイマンと話したが、極端に南部訛りが強い。その彼に、標準英語を話してくださいとは要求できない。当たり前である。ぼくは普通取材で本題に入る前に、くだらないことを言う。冗談も自然と口をついて出てくる。俗語も使う。相手はそういうくだらない話でリラックスし、本題に入る前にはかなり心を開いている。「変な英会話」を習う必要はないが、くだらない、内容のないことを英語で自由に話す能力は必要である。アメリカ人の兄弟同士が話す中にも自由に入れるほどの、「くだらない英語」を話す能力は必要である。これは、今世紀で最も偉大な作家の一人と言われるトマス・ピンチョンと話すときも同じである。マンハッタンに住んでいるときに、子供を学校に送ったあと、毎日のように彼と「くだらない話」もしたが、「くだらない話し」ができないような英語力は、本当の英語力ではない。ピンチョンとはまじめな話も随分したが、くだらない話しも同じ分だけやった。

- ぼくはアメリカに18年暮らし、そのうち取材生活は12年。取材で出会う相手は、ノーベル賞受賞者、世界的に著名な科学者、偉大な作家、ジャーナリスト、諜報部員、さらにホームレスにまで至る。今でも関係が続いている人も多いが、会って最初から難しい話をする人は誰もいない。みんなくだらない話から始める。外国人は俗語を使わない方がいいと主張する人も多いが、それも間違っている。使った方が効果的な状況はいくらでもあるのだ。

- 英語でも日本語でも、読書に支えられない語学力は所詮貧弱である。耳だけで英語を覚えた日本人にも、アメリカで何人も会ったが、英語はでたらめである。それでも相当早口で、くだらない話しをしながら、アメリカ人の夫とコミュニケーションが成り立っているのをみると、不思議な気持ちになる。ちなみにぼくの場合は、日本語の本よりも英語の本を読む方が、仕事上はるかに多い。翻訳もたまに読むが、英語を読んだ方がはやい。その著者に英語でインタビューするのだから、英語で読んだ方がいいに決まっている。

- アメリカ英語は英語の一つであって、日本人が日本人らしい英語を勉強すればいい、何もアメリカ英語を学ぶ必要はない、という、最近はやりの主張に反論したい。何事にも基準が必要だ。英語でいうとその基準をアメリカ英語に置くのは、自然なことだと思う。語感にせよ、言葉の定義にせよ、基準がなければ、コミュニケーションが成り立たない。ぼくが中学生の頃はイギリス英語が強かったが、今はアメリカ英語が強いことは否定できない。そこに基準を合わせないと、コミュニケーションに支障をきたすことは目に見えている。ぼくと英語のできる中国人が直接話すときも、基準をアメリカ英語にすることで誤解が少なくなるのである。

- 日本人で、論文のような英語ではなく、味のある英文が書ける人はまれである。通訳や翻訳が、相当のベテランであっても、味のある英文、つまりそのままアメリカの主流メディアに掲載できるレベルの、味のあるエッセイが書ける人は非常にまれである。しかし、このレベルの英語ができないと本当に英語ができるとは言えないことも確かである。このレベルに達する方法論を書いた本はまだ見たことがない。今まで書かれたものはどれをとってもネイティブ並みになる必要はない、と開き直り論を説いたものばかりである。中にはかなり本質に迫ったもの(斉藤兆史「英語達人塾」など)もあるが、ぼくにはもの足りない。

- タイム誌がいかに簡単に読めるかは、アメリカの教養のないおばさんをみればわかる。純文学こそ読まないが、タイム誌は、何の苦労もなく、寝ながら読むものであるからだ。タイム誌の前の東京支局長とはよく飲みに行ったが、タイム誌を読むための辞書まで、売っている話をすると、「そのことは聞いたことがあるが、それは週刊文春を読むための日本語の辞書があるのと同じである」と言っていた。おかしいのである。

- 今世紀最大の作家といわれるトマス・ピンチョン氏に微妙な表現の違いをよく質問したが、何回か音読してからこちらの方がいいと教えてくれる。文法的な理由を聞いても、説明できないというのだ。それは日本人が日本語を直すときでも同じで、同じことが英語でもできないと英語は絶対にマスターできない。

- ぼくが「マスター」と言っているのは、Francis Tanabe氏やKyoko Moriさんのレベルでの話である。普通のアメリカ人をはるかに超えたレベルである。そこまで到達するには、アメリカ人の作家と同じレベルの英語の感覚が必要であることは言うまでもないが、それが訓練で身につくかどうかは議論の分かれるところだ。

<英語の重要性> <真の英語力> <英語の使い分け> <危機管理の英語>
<発音について> <翻訳の功罪> <英語教育について> <英語の難しさ>
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