国際ジャーナリスト 大野和基
著書・訳書
英語を駆使し、世界のVIPや渦中の人物の懐に飛び込み、ナマの情報を得る極秘テクニックを大公開!
スパイ並の情報収集の技法、アポの取り方、キーワードを引き出す話術、そして最も大事な相手との信頼感の構築法などを伝授。常にライバル社との情報戦を繰り広げるビジネスマンから、将来世界を舞台に活躍したい学生まで、必読・必修のコンテンツが満載。教材は最新の取材映像・音声を利用しますので、リアルな英語力も身につきます!
料金

月刊正論 2010年12月号
生殖ビジネスの光と影
代理出産は家族を再生するのか、崩壊に導くのか?
野田聖子氏の決断は正しかったのか?
生殖ビジネス最前線のアメリカから、実情をリポートする。


今年のノーベル賞は、二年ぶりに日本人二人が化学賞を受賞し、久々に明るい話題をもたらしてくれた。その一方で、医学生理学賞を受賞した英国人博士に世界中の注目が集まっていることを、見過ごすわけにはいかない。博士の名は、ケンブリッジ大学名誉教授の生理学者ロバート・エドワーズ氏。受賞理由は「体外受精技術の開発」である。

氏が1978年に産婦人科医のパトリック・ステプトー医師(88年他界)と連携し、世界初の体外受精児ルイーズ・ブラウンさんを誕生させたときも、世界中のメディアのヘッドラインを飾った。医療の歴史で、体外受精(IVF)の技術はまさに生殖革命と言っても過言ではない。それ以来、体外受精で生まれた子どもは世界中で400万人以上にもなる。

だが、「体外受精技術の開発」は、果たしてノーベル賞にふさわしい、人類に福音をもたらした功績と言えるだろうか。

かれこれ十年ほど前のことだが、エドワーズ氏が来日した際、私は、以前に卵子バンクについてインタビュー取材したことのあるマーク・タッカー博士の紹介で、三人で会食をしたことがある。そのときエドワーズ氏は「子どもは何よりも特別だ」と言いながらも、生命操作の将来を危惧していた。実は、その危惧が現実になっているのだ。

人工授精は、IVFよりもはるか以前の19世紀後半には行われていた。人工授精は精子を子宮に注入するやり方だが、夫の精子に問題があるとか、無精子症だった場合、妻の子宮に第三者の精子を注入するというAID(非配偶者間人工授精)を使うこともある。日本では1948年から行われているが、これもIVFと同様、必ずしも福音をもたらしているとは言えない。それどころか、この手法で生まれてきた多くの人に精神的苦痛を与えている面もある。

ニーチェの名言の中に、こんな箴言がある。
Hope in reality is the worst of all evils, because it prolongs the torments of man.(現実における希望はあらゆる悪の中でもっとも悪い。それは人間の苦しみを長引かせるからだ)

IVF技術がない時代は、不妊と診断された時点で潔くあきらめることができた夫婦も、今や、不妊の標準治療となったIVFがあるため、不妊と診断された瞬間から茨の道が始まる。IVFという〝希望″がまさに苦しみの始まりになったと、言えなくもないのだ。